東京地方裁判所 平成7年(特わ)847号 判決 1995年12月08日
本店所在地
東京都千代田区五番町五番地六号
セントラルコマース株式会社
(右代表者代表取締役 左近充康雄)
本店所在地
東京都江東区東砂二丁目一三番四-五〇三号
有限会社パシフィックインダストリアル
インコーポレーション
(右代表者代表取締役 左近充康雄)
本籍
鹿児島県薩摩郡宮之城町屋地二〇九二番地
住居
東京都江東区東砂二丁目一三番四-五〇三号
会社役員
左近充康雄
昭和一五年四月八日生
右の者らに対する各消費税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官沖原史康、弁護人福島昭宏各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人セントラルコマース株式会社及び被告人有限会社パシフィックインダストリアルインコーポレーションをそれぞれ罰金五〇〇万円に、被告人左近充康雄を懲役一年六月に処する。
訴訟費用は、その三分の一ずつを各被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人セントラルコマース株式会社(以下「被告株式会社」という)は、東京都千代田区五番町五番地六号に本店を置き、工作機械、電気器具及び工具の輸出入等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社、被告人有限会社パシフィックインダストリアルインコーポレーション(以下「被告有限会社」という)は、同都江東区東砂二丁目一三番四-五〇三号に本店を置き、鉄道車輌用部品の輸出入販売等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社、被告人左近充康雄(以下「被告人左近充」という)は、被告株式会社及び被告有限会社の代表取締役として、右両会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人左近充は、右両会社の各業務に関し、過大に消費税の還付を受けようと企て、
第一 課税期間の短縮について所轄麹町税務署長に届出書を提出した被告株式会社の別表一「課税期間」欄記載の九課税期間における実際の控除不足還付税額が、同別表「正規の還付税額」欄記載の金額(九期合計二五万三三一九円)であったにもかかわらず、同別表「申告日」欄記載の日に、前後九回にわたって、同都千代田区九段南一丁目一番一五号所在の所轄麹町税務署において、同税務署長に対し、架空の仕入高を計上するなどして、同別表「申告還付税額」欄記載の過大な控除不足還付税額(九期合計二八三二万四四二八円)等を記載した内容虚偽の消費税確定申告書九通(平成七年押第一一九三号の3ないし11)を各提出し、よって、同税務署長をして、右「申告還付税額」欄記載の金額を被告株式会社に還付することを決定させた上、同別表「還付日」欄記載の日に、同別表「還付の場所」欄記載の場所において、同別表「還付の態様等」欄記載のとおり、被告株式会社の未納消費税等に充当させるなどさせ、もって、不正の行為により、同別表「差額」欄記載の正規の控除不足還付税額と右申告還付税額との差額(九期合計二八〇七万一一〇九円)。別紙1の税額計算書参照)の還付を受け
第二 課税期間の短縮について所轄江東東税務署長に届出書を提出した被告有限会社の別表二「課税期間」欄記載の九課税期間における実際の控除不足還付税額が、同別表「正規の還付税額」欄記載の金額(九期合計二二〇万〇九四四円)であったにもかかわらず、同別表「申告日」欄記載の日に、前後九回にわたって、同都江東区亀戸二丁目一七番八号所在の所轄江東東税務署において、同税務署長に対し、架空の商品仕入高を計上して、同別表「申告還付税額」欄記載の過大な控除不足還付税額(九期合計二六六九万二二七二円)等を記載した内容虚偽の消費税確定申告書九通(同押号の16ないし24)を各提出し、よって、同税務署長をして、右「申告還付税額」欄記載の金額を被告有限会社に還付することを決定させた上、同別表「還付日」欄記載の日に、同別表「還付の場所」欄記載の場所において、同別表「還付の態様等」欄記載のとおり、被告有限会社の未納源泉所得税等に充当させるなどさせ、もって、不正の行為により、同別表「差額」欄記載の正規の控除不足還付税額と右申告還付税額との差額(九期合計二四四九万一三二八円・別紙2の税額計算書参照)の還付を受け
たものである。
(証拠の標目)
〔注・本欄において、括弧内の甲乙の各番号は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の番号を示す。〕
判示全部の事実について
一 被告人左近充の当公判廷における供述
一 被告人左近充の検察官に対する供述調書(一〇通=乙一ないし一〇)
一 国税査察官作成の「査察官報告書」と題する書面(甲三九)
判示冒頭の事実について
一 登記官作成の登記簿謄本(乙一一)及び履歴事項全部証明書(乙一二)
判示第一の各事実について
〔注・本項目(判示第一の各事実について)において、二重括弧内の算用数字は別表一記載の番号の事実を表し、当該証拠がその事実について証拠となることを示す。〕
一 検察官作成の電話聴取書(甲四六)((2))
一 検察事務官作成の捜査報告書(四通=甲四五、五二((7))、八三((7及び8))、八四)
一 検察事務官作成の電話聴取書(甲四七)((3ないし9))
一 大蔵事務官作成の届出書関係調査書(甲一)、課税売上割合調査書(甲二)、課税標準額調査書(甲三)、控除対象仕入税額調査書(甲四)、売上高調査書(甲五)、仕入高調査書(甲六)、荷造運賃調査書(甲七)、雑販売費調査書(甲八)、厚生費調査書(甲九)、修繕費調査書(甲一〇)、電気・ガス・水道料調査書(甲一一)、賃貸料調査書(甲一二)、消耗品費調査書(甲一三)、交通費調査書(甲一四)、通信費調査書(甲一五)、図書印刷費調査書(甲一六)及び雑費調査書(甲一七)
一 大蔵事務官作成の検査てん末書(甲四一)((3ないし9))
一 千代田区四番町郵便局長作成の「国税還付金支払通知書の写しの回答書」と題する書面(甲四〇)((2))
一 押収してある
(1) 消費税課税事業者届出書一袋(平成七年押第一一九三号の1)
(2) 消費税課税期間特例選択届出書一袋(同押号の2)
(3) 消費税確定申告書九袋(同押号の3((1))、同4((2))、同5((3))、同6((4))、同7((5))、同8((6))、同9((7))、同10((8))及び同11((9)))
(4) 支払委託決議書写し二袋(同押号の12((1及び2))、同13((3ないし9)))
判示第二の各事実について
〔注・本項目(判示第二の各事実について)において、二重括弧内の算用数字は別表二記載の番号の事実を表し、当該証拠がその事実について証拠となることを示す。〕
一 検察官作成の電話聴取書(甲五〇)((4))
一 検察事務官作成の捜査報告書(二通=甲四八、八五((9)))
一 検察事務官作成の電話聴取書(二通=甲四九)((2及び3))、五一((5ないし9)))
一 大蔵事務官作成の届出書関係調査書(甲一八)、課税売上割合調査書(甲一九)、課税標準額調査書(甲二〇)、控除対象仕入税額調査書(甲二一)、売上高調査書(甲二二)、商品仕入高調査書(甲二三)、広告宣伝費調査書(甲二四)、発送運搬費調査書(甲二五)、事務用消耗品費調査書(甲二六)、事務費調査書(甲二七)、消耗品費調査書(甲二八)、旅費交通費調査書(甲二九)、手数料調査書(甲三〇)、交際接待費調査書(甲三一)、通信費調査書(甲三二)、新聞図書費調査書(甲三三)、会議費調査書(甲三四)、リース料調査書(甲三五)、管理諸費調査書(甲三六)、地代家賃調査書(甲三七)及び雑費調査書(甲三八)
一 大蔵事務官曲木英一作成の検査てん末書(二通=甲四二((2及び3))、四四((5ないし9)))
一 城東郵便局長作成の「国税還付金支払通知書の写しの回答書」と題する書面(甲四三)((4))
一 押収してある
(1) 消費税課税事業者届出書一袋(平成七年押第一一九三号の14)
(2) 消費税課税期間特例選択届出書一袋(同押号の15)
(3) 消費税確定申告書九袋(同押号の16((1))、同17((2))、同18((3))、同19((4))、同20((5))、同21((6))、同22((7))、同23((8))及び同24((9)))
(4) 支払委託決議書写し二袋(同押号の25((1及び4))、同26((2、3、5ないし9)))
(法令の適用)
一 罰条
1 被告株式会社
判示第一の各事実につき、いずれも消費税法七〇条一項、六四条一項二号
2 被告有限会社
判示第二の各事実につき、いずれも消費税法七〇条一項、六四条一項二号
3 被告人左近充
判示第一及び第二の各所為につき、いずれも消費税法七〇条一項、六四条一項二号
二 刑種の選択
被告人左近充につき、いずれも懲役刑
三 併合罪の処理
1 被告株式会社
刑法(刑法は、平成七年法律第九一号による改正前のもの。以下、同様)四五条前段、四八条二項
2 被告有限会社
刑法四五条前段、四八条二項
3 被告人左近充
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二別表二の番号8の罪の刑に法定の加重)
四 訴訟費用
被告人三名につき、刑事訴訟法一八一条一項本文
(量刑の理由)
本件は、鉄道用部品の輸出等を行っていた被告株式会社及び被告有限会社の各代表取締役を務める被告人左近充が、右両会社の各業務に関し過大に消費税の還付を受けようと企て、いずれも九課税期間(二年三か月間)にわたり、架空の仕入高を計上するなどして、被告株式会社については合計二八〇〇万円余の消費税の不正還付(但し、うち三二〇万円余は未納消費税等に充当)を、被告有限会社については合計二四四〇万円余の消費税の不正還付(但し、うち約一一〇万円は未納源泉所得税等に充当)を、それぞれ受けたという事案である。
我が国における消費税制は、製造、卸し、小売といった一つの段階でのみ課税するのではなく、最終消費に至る各取引の全ての段階で課税した上、税の累積を排除するため、最終消費に係る取引の前段階の全ての消費税を控除・還付する方法を採用しているところ、消費税法上、輸出取引に係る売上については消費税を課されないので、国内売上の全くない輸出事業者は、仕入に係る消費税額を控除できることにより消費税を全く負担せずに済み、このため仕入の段階で一旦負担した仕入に係る消費税については、後日確定申告して還付を受けることができるものとされている。被告人左近充は、本件当時、右両会社がいずれも国内売上のほとんどない輸出企業であったことから、右還付制度に目を付けて、本件各課税期間中、両会社の実際の仕入金額とかけ離れた、多額の架空ないし水増しした仕入金額(被告株式会社が合計九億七一〇〇万円余、被告有限会社が合計八億四九〇〇万円余)を計上し、仕入に係る消費税額を過大に申告するなどして、不正に消費税の還付を受けたものである。
被告人左近充は、両会社の輸出事業が不振となり、借入金の返済に充てるため本件犯行に及んだなどと述べているが、そのような自己中心的かつ短絡的な動機には酌量の余地がない。本件で不正に還付を受けた金額(不正受還付金)は、両会社合計五二五〇万円余と高額であるが、被告株式会社につき本件後に発生した正規の還付金一万七〇〇〇円弱が国税当局により充当されたのみで、その余の不正受還付金は未だに全く返納されていない。また、その犯行状況をみても、両会社ともに、前記のとおり計画的かつ継続的で多数回にわたっているし、被告有限会社に対する税務調査の開始後も、なお被告株式会社につき犯行を行うなど悪質極まりない。更に、本件において特筆すべきは、右各課税期間中に両会社の受けた還付金(正規の還付金と不正受還付金の合計金額)に占める不正受還付金の割合が極めて高いという点であり、被告株式会社が通算約九九パーセント、被告有限会社が通算約九一パーセントと、まさに還付請求に名を借りた詐欺犯罪ともいうべき破廉恥さを示している。加えて、我が国は、納税者を信頼して、消費税についても自主申告を原則とする申告納税制度を採用した上、早期還付を図るべく還付手続を簡素化しているところ、被告人左近充は、右の信頼・配慮を逆手にとって右還付制度を悪用し、まんまと多額の金員を手中に納めたものであって、本件が他の納税者に与えた消費税制に対する不信感、不公平感には、誠に憂慮すべきものがある。以上の諸般の事情に鑑みると、被告人左近充及び両会社の刑事責任は重大であるというほかない。
したがって、被告人左近充は、本件犯行を反省し、両会社につき修正申告を済ませていること、今後は実弟の経営する会社で働き、その収入の中から不正受還付金を返納していきたい旨当公判廷で述べていること、右実弟が返納に協力する旨約していること、被告人左近充には前科前歴が全くないこと、その他被告人左近充の生育歴・家庭環境等被告人左近充及び両会社のために酌むべき一切の情状を十分考慮しても、なお主文の各実刑が相当と思料される。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 被告株式会社及び被告有限会社・各罰金五〇〇万円、被告人左近充・懲役二年六月)
(裁判官 平木正洋)
【別表一】 セントラルコマース株式会社
<省略>
【別表二】 有限会社パシフィックインダストリアルインコーポレーション
<省略>
別紙1 税額計算書 No.1
<省略>
税額計算書 No.2
<省略>
税額計算書 No.3
<省略>
税額計算書 No.4
<省略>
税額計算書 No.5
<省略>
税額計算書 No.6
<省略>
税額計算書
<省略>
税額計算書 No.8
<省略>
税額計算書 No.9
<省略>
別紙2 税額計算書 No.1
<省略>
税額計算書 No.2
<省略>
税額計算書 No.3
<省略>
税額計算書 No.4
<省略>
税額計算書 No.5
<省略>
税額計算書 No.6
<省略>
税額計算書 No.7
<省略>
税額計算書 No.8
<省略>
税額計算書 No.9
<省略>